青子、本当に怒ってるんだからね!!
いーっつも快斗ってば青子の事お子様扱いしてばっかり!!
こうなったら絶対快斗を驚かせてやらなきゃ気がすまない!
青子だって、とびっきり”せくしー”な格好して、快斗の事”のーさつ”してやるんだから!!
快斗!!勝負よ!!
「あー!!決まんないよ〜!時間無いのに〜!!快斗との久しぶりのデートなのに〜!!」
自分の部屋一杯に服を散らかして青子は焦っていた。
「久しぶりに映画でも行かねーか?」
の快斗の一言により、デートが決まったのだ。
長い幼馴染から卒業した快斗と青子。
しかし、快斗は未だ怪盗KIDとして活動しており、なかなか二人きりでどこかへ行く事はなかっただけに
快斗から誘ってくれただけで青子は嬉しくて仕方なかった。
それだけに快斗の前でとびっきりのおしゃれをしていたくて結果、部屋中に服が散らばるという
今の状況を作り上げてしまったのだ。
昨日の晩から始まった着せ替え大会。未だピンとくるものはなくて、でも時間だけは迫ってきている。
「あーん!こっちは、もう季節合わないし〜。こっちはまだ寒いよね〜?あ!これ!」
迷いに迷っていた青子は一つの服を選び出した。
「これー!この間恵子と買い物行った時に買ったワンピース!!これにしよう!」
薄いピンクに白い小花の散った春らしいワンピース。この間買い物の時に一目惚れして買ったものだ。
可憐な感じをかもし出してくれるワンピースはふわっとしたイメージを持つ青子にぴったりとくる服。
一緒にいた恵子もショップの店員さんも「似合う」と褒めてくれたとびっきり。
これに似合う靴やバッグをそろえ、意気揚々と家を出る。
(快斗、どんな顔するかな〜?『似合うよ』とかいってくれるかな・・・?)
快斗とのデートへの期待を胸に秘め、待ち合わせ場所へと向かう。
待ち合わせ場所である駅前の時計台に青子が着くと快斗はもうすでにきていた。
「あ!快斗〜〜!」
嬉しさ一杯で青子が快斗を大声で呼ぶ。
「げ!!大声出すんじゃねーよ。アホ子。」
「なによー!!バ快斗!!」
周囲の人の目をひきつけながらいつもの様に軽口を叩き合う。
「青子・・・お前その格好・・。」
「あ!エヘヘ〜。どお?」
青子をまじまじと見てポケッとした快斗の態度に気をよくした青子が
くるりと一回転してみせる。そうする事でフレアータイプのスカートの裾がふわりと広がり、
青子の太ももの辺りまで見えてしまい、そんな青子の愛らしい姿に周りの男どもが見とれたのを
敏感に感じ取った快斗が慌てて青子を止める。
しかも素直に褒めればいいものをつい今までの癖と照れ隠しに快斗は
「ったくお子様のくせに妙な格好してよー。」
と、悪態をついてしまう。
「なによーそれっ!!せっかく買ったばっかりのお気に入りなのにーっ!!
そんな言い方しなくってもいいでしょー!!バ快斗ー!!」
「本音を言ったまでだろ。」
まさしく売り言葉に買い言葉。
せっかく久々の二人きりのデート・・・だったはずが口ゲンカのラリーに発展してしまい、
二人とも、もう何故こんな言い合いになってしまったのかと心の中で思いつつももはや止められなくなっていた。
「なによー!」
「アホ子みたいなお子様がどんなカッコしたって一緒だよ!」
ヒートアップしていたため、言ってしまった快斗のキツい一言。
「やべっ!!」
・・・・。言ってしまってからまずいと思っても、もう手遅れになってしまっていた。
今にも泣き出しそうになりながら青子は快斗を平手打ちにしていた。
「なによ。何よ!!快斗の馬鹿ー!!」
そう搾り出すように出された叫び声とともに・・・。
「快斗の馬鹿!!馬鹿!!!」
あのあと、どうやって帰って来たのかなんて覚えてない。せっかく快斗のために着たワンピースは
くしゃくしゃになって床に落とされていた。
・・・ただ綺麗の見せたかっただけなのに・・・。
(もう・・・怒った!!快斗のバカ!こうなったらとびっきり”せくしー”な格好して快斗のこと
”のーさつ”してやるんだから!!)
決意を胸に青子はスクッと立ち上がりクローゼットを開ける。
「うーん・・・。ない・・・なあ・・・。」
そこに収められているのは、青子好みの洋服の数々。当然”のーさつ”出来るような”せくしーな服”など
あるわけもなく・・・。どうしようかと考え込んでしまった青子だったが一つの妙案を思いつく。
「そうだ!蘭ちゃんなら持ってるかも!!」
自分ととてもよく似た境遇の友達のことを思い出す。
「そうだ!そうよ、蘭ちゃんなら!!」
青子は携帯を手に取り、電話を掛けようとしたが、はたと気づいた。
(でも・・・蘭ちゃんに服借りてセクシーになっても快斗なら・・・。)
『えー?蘭ちゃんの服で〜?じゃあお子様青子でもある程度いくに決まってんじゃん!
つまり、おめーじゃなくって、蘭ちゃんの力って訳だ!』
なーんて言われるに決まっている。
「うーん・・・。ワンピース買ったばっかりでお小遣いキツいけど・・。
うん!買いにいっちゃおう!」
自分の力でなんとか快斗にギャフンと言わせたくて青子は買い物に出かける事にした。
普段絶対に入る事の無い少し大人っぽい服の置いてあるブティックの前に青子は立っていた。
「う・・・。ううーん・・・。ええい!」
決意を胸に青子は決死の覚悟で入店した。
「いらっしゃいませ!」
ブティックの店員が青子の方へ歩み寄る。
「今日は何かお探しですか?」
「あ・・・。えと・・。少し・・大人っぽい・・・。セクシーな服を!!」
青子が戸惑いながらもきっぱりと告げる。
店員はびっくりした顔をして青子をじっと見ていた。
(やだー!青子みたいなお子様が何言ってるの?ッて顔してる〜。)
少しひるんだ青子だったが店員はにこやかに笑いながら
「そうですねー。お客様スタイルがよろしいからこちらのタイトのミニなどよくお似合いになると思いますよ。」
と、青子に勧めてくる。
「え・・と、予算これくらいなんですけど・・・。」
「トータルコーディネートでよろしいですか?」
「はい!!」
感じのいい店員でよかったと青子は思いながら、その店員が店の中、所狭しと回りながら、青子に服を渡し、試着させる。
大人っぽ過ぎる服や、今までとあまり変わらない可愛い服まで。ありとあらゆるパターンを試していく。
そうしているうちに、予算的にもぴったりな可愛さを残しつつ、少し背伸びした服を見つけ出した。
少しラメの入ったカットソーにひざ少し上くらいのスカートには大胆にもスリットが入っている。
青子という最高な素材を前にショップの店員は親切にも服に合った薄い化粧を施してくれた。
「さ、どうです?」
店員に促されて鏡の前に立った青子はその姿に驚いた。
「え・・・?こ、これが青子・・・?」
「素敵ですよー。」
普段の青この可愛らしさを残しつつ、少し大人びた姿がそこには映し出されていた。
「快斗、なんていうだろうな〜?」
さっきまで・・・。
ブティックで服を買うまでは快斗を見返してやる!位の気持ちしかなかった青子だったが、
理想どおりの・・・いや、理想以上の自分の姿に、素直に「大好きな人に見せたい!」という気持ちになっていた。
普段以上に美しく着飾った青子に見とれる男は多く、いつも以上にナンパ男が寄ってくる。
「彼女〜、一人〜?遊びに行こうよ!」
そんな風に声を掛けてくる男に対して
「ごめんね!大好きな人にみせにいくところなの!」
ナチュラルに断る青子は本当に輝いて見える。やがて青子は快斗の家の前に来ていた。
「かーいとー!」
大声で快斗を呼ぶ。
「あんだよ?」
青子のすぐ後ろで声が聞こえ
「きゃあ!」
思わず叫んでしまう。
「うっせーなあ。」
「快斗!!びっくりさせないでよ!!」
少し膨れて見せる。
「おめーなあ!急に走って消えるんじゃねーよ!どんだけ心配したと・・・思って・・・・。」
快斗は少し不機嫌そうに、青子に向けた文句を言っていたはずが、急にポケッと立ち尽くしている。
さっき・・。今朝、青子と待ち合わせをしたときと同じ顔だった。
「あ・・。青子・・おめー・・そのカッコ・・・。」
「なに?やっぱ・・・。似合わないのかなあ・・・?」
立ち尽くしたまま何もいってくれない快斗に青子が不安になって問いただそうとする。
「そうじゃなくって!!」
今にも泣き出しそうな青子の沈んだ顔に快斗が慌てる。
「そんな格好、俺以外の奴が見んのが嫌なんだよ!!」
「え・・・・?」
焦った快斗が思わず本音を告げてしまい、
「やべっ・・・!!」
朝とは別の意味でまずかったが、今回のは・・・。また、まずい・・。と思ったが後のまつり。
告げられた快斗の本音は青子の耳に残ってしまった。
「似合って・・・る?」
「あ、ああ・・・。」
快斗は青子の確認のことばにも少ししどろもどろに言葉を返す。
「でもよー。なんでンな格好してんだ?」
「だあって・・・。快斗朝の服似あわないって言う・・からあ。だからとびっきりセクシーな格好して
快斗のこと悩殺してやろうかな・・って・・・。」
「バーロ。誰も似合ってないなんていってねーよ。・・・それに・・・さ。」
快斗は青子をじっと見つめたまま言葉をつづっていく。そうしておもむろに青子に布をかぶせる。
「な、何??」
「俺は・・・。」
ワン・・・ツー・・・スリー!!
「え・・・?」
快斗のカウントとともに、服が変わる。普段の青子らしい服・・・。
「何すんのよー!せっかく・・・!!」
「俺はいつもの青子がいいんだよ!!」
照れてそっぽを向いた快斗が顔を真っ赤にしてそう告げる。
「え・・・?」
「無理に大人びた格好よりも・・・さ!」
「快・・・斗」
「ゴメンな。」
「え・・・?」
「朝、ひどい事いって・・。」
「もう・・青子気にして無いよ。快斗に欲しかった言葉もらえたもん。」
ふわりと青子が快斗に抱きつく。
そんな青子を快斗は力を少し込めて抱きしめた。
最低なケンカで始まった一日だったけど、ちゃんと最高の一日で終わった。
これから先もきっとこんな風に二人の日常は過ぎていくんだろう。